夢のひと


 俺が医務室の住人になってから4日目。
 怪我の後の発熱は早々に治まったが、腹部の裂傷がもう少し回復するまでは安静を言い渡されて、とりあえずは大人しく寝転がっているが、そろそろ限界っぽい。
 寝過ぎで眠りが浅くて、退屈でたまらない。
 今打ってる点滴が終わったら抜け出そう…なんて考えながら、僅かにまどろむ。

 てのひらの中に、温かいものがあることに気付いて目を覚ますと。
 そこにあったのはマリューの細い指。
 いつの間にやってきたのか…おそらく静かにそっと入ってきたのだろう…ベッドの端に頭だけを乗せて、床に座り込むようにして、マリューが居眠ってる。
 力の抜けたマリューの指が床に向けて滑り落ちそうになって、慌てて捕まえた。
 しまった、と思ったが遅かった。
 マリューの睫毛が小さく震えて、薄く目が開いてしまう。
「…ごめん、起こした?」
 ゆるゆるとかぶりを振って、俯いたまま小さな声で「ごめんなさい」と言う彼女。
「ずっと連続でブリッジに詰めてたんだろ?」
「ええ…なんとかデブリベルトに紛れることができて…」
「疲れ過ぎ。こんなところで寝てないで、艦長室で眠ったら?」
 マリューはまた小さく首を横に振る。
「なんで?」
「ここで…寝る…」
 床に座り込んだまま、ベッドにもたれかかるようにして、重く落ちる瞼に堪えきれないように目を閉じてしまう。
「マリュー…、でもさぁ」
「…ひとりで眠ると…恐い夢を…見そうで…だからここで…」
 途切れ途切れに呟くと、マリューはすぅっと寝入ってしまった。

 ふと、繋がれた点滴を見上げると、すっかり終わっている。針をそっと引き抜いて、管をまとめてボトルに括り付ける。
 さて、どうしよう。
 このまま床の上に寝かせておくなんてできないし。
 マリューを艦長室まで運んでやりたいが、俺ひとりならともかく、彼女を連れて移動…はさすがに辛いだろう。
 かと言って、誰かに頼む気はさらさらない。
 …医師はあと数時間は戻ってこない。(別の軍務に就いている)
 そして、俺は今、全く眠くない。

「じゃあ、こうしよっか。マリュー?」
 すっかり熟睡している彼女に、とりあえず提案を告げて、勝手に了承を取って実行する。
 マリューをそっとベッドに移して寝かせて。
 俺はその寝顔をしっかり鑑賞させてもらうことにした。
 もちろん、添い寝モードで。
 無傷で元気なら絶対「何か」するのになぁと思いつつ、今日はただ眠る彼女を見守ることにする。

 あどけない寝顔が嬉しくて、温もった手をそっと握ってやると、その指先が握り返すように小さく動いた。

 恐い夢を見ないように。
 ずっと見守っててやるからさ。

 …結局マリューが次に目覚めるまでのおよそ6時間。
 ずーっと観察してた俺もメデタイ男だよなーと、後になって思い返しては苦笑する。


end



えろくなくてごめんなさーい♪
ところで、軍医は?(笑)

2003/09/12 UP


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