se・cre・tive
「ムウさん!?もう起きてもいいんですか?」
「だって、寝てるばっかりですることねぇんだもん。退屈で退屈で」
相変わらず包帯を巻かれて、見かけは痛々しいのに、本人は平気そうに上着をひっかけただけで、アークエンジェルの中をうろうろしている。
マリューさんに見つかったら怒られますよ、と言いかけて、自分も似たような立場だと気付いて苦笑う。
「キラはこんなとこで何してんの?機体の整備は?」
「え…。マードックさんとディアッカに取られちゃいました」
倒れたのは少しの間だけで、今はもう平気だと言ったのに。過保護な扱いに僕は少しむくれてた。
それで、格納庫をキャットウォークの上から望んでいたわけだ。
ディアッカのバスターはともかく、ストライクの整備くらい僕に手伝わせてくれてもいいのに。
ムウさんの機体だけど、僕とムウさんが一緒になってカスタマイズした、大切なストライク。
「あいつらなりに気を遣ってんだろ?もう、大丈夫なのか?」
「はい。もう…って、ムウさんに大丈夫って言われるの、何度目なんだろう?」
「なんだよ、いきなり」
ムウさんの左手のひじがこつんと僕のこめかみを突付く。
今、無理をしている風には見えない。とても自然に、僕を励ましてくれている。
いつも、僕はいつもこの人に気にかけて貰えてたから、自分を保てたんだ。
「大丈夫ですよ。僕は。…みんなもいるし」
あなたもいるし。
そう思うと、少しだけ…ではなく、本当に心が軽くなるから不思議だ。
「じゃあさぁ。頼みがあるんだけど」
「…なんですか?」
「ストライクのOS、まだ遊びがあっただろ?もう少し反応速度上げといてくれ」
「な、何言ってるんですか!?そんなことしたら身体が…」
「何も今すぐ乗るわけじゃない」
クスクスと笑ってる。
もう、この人は、からかって遊んでるんだろうか。
「もうちょっと治らんことには乗れないなぁ。でも、お前が出るときには俺も一緒に出るから」
「ムウさん」
「その時にはもうちょっと動けた方がいいだろう?」
「ムウさん!」
「お前だけ、前に行かせるなんてことはできねぇよ」
どうしてそんなこと、笑って言えるんですか?
「一人で行くわけじゃありません。きっとアスランもディアッカも一緒です。ムウさんは来ないでください」
「じゃあ、後ろ守らせろよ。キラが整備したストライクなら、俺は役に立てると思うんだけど」
「でも」
「守りたいんだよ」
僕の顔を覗き込んで「な?」と言う。
瞳の青い色だけはとても真剣で、僕はもういやだとは言えなかった。
目を伏せて頷くと、ムウは嬉しそうに僕の頭をがしがしと撫でた。
「お前一人ではどこにも行かせない。大丈夫だから、必ず帰ってこいよ」
ドキっと心臓が跳ねる。
やっぱり見抜かれていたのかな?
自分が人じゃないような気がしていたこと。
だから、いなくなってもいいような気がしていたこと。
でも、この人が一緒なら、また自分を保てるだろうか。
「ムウさんこそ、また仮面の人が出てきたからって、勝手にどこかに行ったりしないでくださいね?」
「うーん…まあ、それはそれで…」
言葉を濁そうとしたムウさんの足元を軽く蹴り上げると、低重力場を離れてクルリと格納庫の床面へ向かって落ちてゆく。
丁度、マードックさんとディアッカが整備を終えて艦内に戻っていくのが見えた。
「ちゃんと約束してくれなきゃ、OS直しませんよ!」
甘えるような声で頼むよーと言いながら、どんどん落ちてゆく。ふざけて笑ってる。
ため息ひとつ。
約束したって、きっと破られるだろうな。
解かってても。
僕を止めようとしないこの人に、僕が止められるわけがない。
床を蹴って、キャットウォークから離れる。
そして、OSを修正するために、僕はストライクのコクピットのハッチを開いた。
end
たまには…いいよねぇ?(汗)
わがまま兄ちゃんと、最近またちょっと弱った弟。そんなのも。(笑)
2003/09/07 UP
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