Nightmare -3



夢だったんだ。
夢だったんだ。
本当に欲していたんだ。
だから、夢を見たんだ。
僕に似たあの子はコーディネイターで、だから、父に優しく抱いてもらえたんだ。

ならば、僕も。


「ムウ・ラ・フラガ?あのアル・ダ・フラガの子か?」
「そうらしい。面白いものを見つけたな」
「何が面白い!?コーディネイターの子供など、拾ってきても仕方ないだろう」
「それが子供はナチュラルなんだ。あの、アイツの子が…ハハハッ!」

薄汚い大人。
それでも、俺はやらなきゃいけないと思っていた。
訓練と称して繰り返される暴行に耐えて、“成果”を出さなくちゃならない。
“痛み止め”と偽って飲まされる薬は、俺の体を強く作り変える。
代わりに、差し出さなくてはならない理性。
同じ時期に拾われた子供は、もう誰も残っていない。
みんな、“処分”されてしまった。
耐えて、生き残って、見返してやる。
誰に?
誰を?

激しい身体の痛みと、真っ黒な夢から逃れようと、たどり着いた水道の蛇口。
思いっきり強くひねって、生ぬるい滝の中に頭を突っ込む。
ただ、気持ちが悪くなるばかり。
手でその水をすくって飲もうとした時、いきなり腕を引かれて、水はシンクに流れ落ちた。

「その水、飲まない方がいいよ。それも毒だから」

柔和な黒い眼、黒髪の利発そうな子。
初めて見る顔だった。新入りか。

「毒?…薬?ま、どっちでも一緒だな」
「安全な水はここじゃなくて、あいつらが使ってる水場。どうしても飲みたいんならそっちに行った方がいい」

半分はおせっかいな奴だと思ってむかついた。
半分は嬉しかった。

「よかった。君はまだ笑えるんだね」
「俺、優しくされるの好き。同情されるの好き。それが本心じゃないって解かってても、ね」
「だからここに来たの?」

頷いて答える。
身体と思考の麻痺が久々に薄れてくる。
こんな、まともな会話は半年振りくらいだろうか。

「お前こそ何だよ。お前みたいな奴が来るところじゃないだろ?ここは」
「君を助けに来たんだ」
「余計なお世話だ!」

今度は、本気で怒った。
なのに、目の前の笑みは崩れない。

「俺の生き方だ。俺が決める!」
「違う。君の生き方じゃない。ここはヒトに似た殺人兵器を作る工場だ」
「そうだとしても!それが俺に望まれる生き方ならそれでいい!」
「違う。君が望んでいるのはそういうものじゃない。さっき君がそう言ったじゃないか」
「何を…何を言っているのかわからないっ!」

激する感情に思考がパニックを起こし始める。

―――アイツはダメだ。
―――アイツはダメだ。
―――アイツはダメだ。

強くなるから、賢くなるから、
僕を認めてよ、父さん!



「…少佐、フラガ少佐!!」

マードックの、懐かしいほどのダミ声。
動けない俺の代わりに、シートベルトを外してくれる。

「あー、すまんすまん。無重力が気持ちよくてさ。ついうとうとしちまった」


あの写真の子供は、俺じゃない。
でも、あんな夢を、ずっとずっと見続けていたんだ。



next?



2003/08/19 UP


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