エレベーターの扉が3人の後ろで閉じて、階下の通路に着くまで、皆言葉を発することができなかった。
 エレベーターが止まって、ようやくトノムラが一歩踏み出す。
「あの、食堂、行きませんか?」
 残りの二人は未だ放心状態。
「ここにいたら、どちらかが出てきたときにまた顔あわせることになりますよ?」
 そりゃ気まずい…。ようやくノイマンとチャンドラの呪縛が解ける。

「大胆だよなー」
「そーだなー」
 チャンドラとトノムラがため息混じりに同意しあうが、実は二人が指している人物は違ってたりする。
 まあどっちもどっちだ。
「なあ、このこと、しばらくは口外しないようにしろよ」
 ノイマンが真剣な表情で、二人に提案する。
「どうしてですかぁ?どうせ少佐のことだから、すぐにいろんなところにバラしちゃいますよ?」
「てか、少佐見てたら解かるじゃないですか!きっとウキウキですよ?」
「それはそうだが…メカニックには艦長のファンも多いだろ?士気が下がるんじゃないか?」
 士気…確かにそれはマズい。
「りょーかい」
 チャンドラが気の抜けた返事をして、3人はまたため息。
 ああ、羨ましい。

 そこに。噂の一人がひょっこり登場。
「ここにいたか。あー、さっきは済まなかったなぁ。もういいぞ。俺格納庫行くし」
 やっぱりウキウキしてる…トノムラがガックリと肩を落とす。
「少佐ぁ〜。口紅、付いてますよぉ」
 チャンドラの指摘にムウは手の甲で口元をぬぐって、その場所を確かめるように見る。
 薄く色の付いた手の甲を眺めてから。
「ああ勿体無い。そのままにしておけばよかったなぁ」
 ぬけぬけと言い放つ。

 ついと立ち上がったトノムラがムウとすれ違いに食堂を出ながら、ひじでムウのこめかみ辺りを小突く。
「あーあ。艦長に憧れてたのになぁ」
「こんなお調子者で、苦労しますよー艦長」
 続いてチャンドラもムウの後頭部を一発叩いていく。
「いってー!おまえら、上官にぃ!」
 ノイマンが薄く笑みを浮かべてムウの前に立つ。
「バジルール中尉に報告しますよ?」
 一瞬ムウが怯むが、開き直る。
「おお、いいぜー。AAはもう地球軍じゃないんだし」
「いいんですね?関係なくても俺は言いますよ?」
 全員の脳裏に、烈火のごとく怒るナタルの姿が安易に想像できる。
「…なあ、ホントに言う?」
 一気に勢いが萎えるムウの態度に、三人が笑い出す。
「さあ、どうしましょうか?」


end



※ 38話のTV感想も合わせてごらんください。

2003/06/29 UP


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