「アスラン、そのパイロットスーツ…どうしたんですか!?」
 輸送用ヘリにイージスを搭載し、捜索の礼を言おうとコクピットに上がったところで、ニコルが驚いて問いかけてくる。
「え?ああ」
「ああ、じゃないですよ!…何かあったんですか?」
 ニコルの視線は鋭い。
 説明しなくても…濃紅のスーツにできた2箇所の破れ目が弾傷だということに気付いているのだろう。
 すぐに、返答できなかった。

 先程別れたばかりの女を思う。
 地球軍の戦闘機に乗っていた。
 昨日、自分が乗っていた輸送機を落としたのは彼女。
 それなのに、自分は軍人ではないと言った。

「実は銃が暴発して」
「…見え透いてますよ?」
「じゃあ、順当に転んだ」
「…それもあんまりですね」
「説明が難しいんだ」
「誰に撃たれたんですか?」

 カガリに。

 率直に問われて、答えそうになってしまった。

 銃の扱い方も知らない。
 威勢のいいことを言いながら、いざとなると悲鳴を上げたり感情に走ったり。
 気持ちの貸し借りを気にしたり。
 あれは、戦争をやる人間ではない。
 戦争ができる女じゃない。

「昨日、輸送機が落ちる直前に、あの海域付近でカーペンタリアの潜水母艦が沈められました。“足つき”に」
「…そうか」

 もたらされる情報に、沢山の想いが交錯する。
 キラがやったのか、カガリがやったのか。
 次に会ったときに、殺せるだろうか…。

「ニコル。もし俺がザフトを裏切ったとしたら、おまえは俺を殺せるか?」
「な、何を突然!」
 ニコルは目を見開いて驚いた後、指を顎に当てて少し考えて。
「…殺しますよ。でもきっとあなたの方が僕を殺すんでしょうね」
「そう…かな」
「そんなことよりその傷痕…」
「たいしたことはないから」
「返事になっていません!」

 珍しく怒鳴ってから、ため息を吐く。
 ニコルの指が流れるように動いて、ヘリがふわりと浮き上がる。

「帰投します。……言いたくないのならば、もういいです」
「すまない。…いつか、話すかもしれない」
「期待せずに待ってます」

 かつての友と撃ち合うことになってしまったことを。
 弱い女が自分に銃を向けた、その理由を。


2003/04/06 UP


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