手紙


「おーい、エヴァン!っとぉ、ダイブしてんのかぁ?」

 森の中に続く寂れた街道沿いにある小さな家、不釣合いなほど広いその庭に地脈を強調する石柱があり、中心に向かって男が声をかけている。  程なくそこにジオゲートが開き、庭の主が姿を現した。

「よぉパイク!仕事かぁ?」

 颯爽と手を振るエヴァンに、数ヶ月前までの頼りなさは無い。
「…オマエ、まともな地導師になったんだなぁ〜」
「へっへー。時々地脈を読み間違えることもアリだけどな。ってコレは内緒だぜ?」

 ああ、だから移動に時間がかかるなんてことがあるんだな、とパイクは理解する。
「半人前から新米ってトコか?」
「るせーなっ!で、何だよ?」
「手紙だ。仕事の依頼と、軍からだ。軍って言えば、あのクロイツはどーして…」
「だーかーら、知るかよってんだ!」
「はははっ悪りぃな!じゃあ帰るぜ。近いうちにオレん家の店の手伝いにも来いよ!荷物溜まってるぜ」
「はぁ、おっちゃん、人使い荒いからなぁ…またな!」

 手を振りながらパイクがエンシャントギアバイクに乗って去ってゆく。

 ジオゲートを閉じ、家のすぐ横にある切り株の上に腰掛け手紙を開封してゆく。
 手紙は3通。
 人運びの依頼。荷物運びの依頼。
 それから少し厚めの軍からの手紙。差出人はディーネ少尉。
 ふぅ、と一息ついてから、ゆっくりと封を切る。



 お久しぶりです。
 あなたへの手紙を預かりましたので、同封します。
 手紙を書いたのは、エスカーレの高原地区で会った、遺跡調査をしていた科学士官の家の子供です。
 名前は明かせません。明かしてはならないと子供にも言いました。

 あれから、軍の混乱は収まりつつあります。
 あの存在(=クァン・リー。まわりくどいようですが、今では軍内部でハッキリと言葉にすることも忌まれています)については、事実を捻じ曲げて記録しようとする軍幹部がほとんどです。我が軍が成したのは、精霊暴走を止めたこと。それ以降のことはうやむやになってしまうかもしれません。
 クロイツ中佐とスペクトの処分も、未だ保留のままです。降格は間違いなさそうですが。
 あの存在について、恐れている者が大多数です。
 子供とあの存在の関係について、知っているのは厳密に言えば私たちだけです。両親は子供の想像だと思い、信じてはいない様子ですから。
 この関係が誰かに知られてしまったら、もしそれが軍の関係者なら、あまり良い想像はできません。
 あなたが誰かに知らせるということはないでしょう。でも、もしこの手紙があなたのもとへ届かなかったら?その可能性も捨てきれません。
 そういう理由で名前は伏せました。
 あとは彼の手紙を読んでください。

 それから。
 ロッカ村の夏祭りにクラッシュヘッズがコンサートを開きます。
 あの曲に合う歌を作って、旅芸人の娘が歌うらしいですよ。

 では。



 そして、薄い封筒に別の手紙が入っていて、丁寧な、細い字が綴られている。



 こんにちは、エヴァンさん。
 あの時は僕の話を聞いてくれて、信じてくれて、ありがとうございました。
 僕ととても仲良しだった友達のこと、お父さんは悪いものだったと言っています。
 理由はよくわかりません。お父さんもよくわかってないみたいです。
 でも、僕にはあの子が悪いものだったなんて、今でも思えません。
 大切な友達だったから。
 ディーネさんが教えてくれました。あなたがあの子を自由にした、
 僕と同じように、あの子と友達になろうとしてくれたって。
 とても嬉しかったです。
 この間、不思議な夢を見ました。
 夜の空みたいなのが見える白い部屋で、あの子が砂を撒いて、水をこぼして、火花を散らして、薄布で風を作って、それが全部音楽に聞こえて。
 きれいだなって見ていたら、僕のほうを見て、「一緒に遊ぼう」って言うんです。
 そこで目が覚めてしまいました。
 あの子は、精霊だったのでしょうか?僕にはそんな気がしました。
 僕は大きくなったらお父さんのように遺跡を研究したいです。
 またあの子に会えたらいいなと、思っています。
 あなたにも、また会いたいです。
 エスカーレまで来ることがあったら、お話を聞かせてください。
 それでは、さようなら。



「クァン・リーはいつも俺たちのそばにいる。…そうだろ?」

 夕暮れに近い、薄紫色の空に問いかけてみる。
 風の精霊が何か答えたような気がした。

「とりあえず、ロッカの夏祭りには絶対行くぞ!」

 と、決意を口にして、今日の仕事の片付けと夕食の支度を始めるべく、家の扉をあけた。



2002.05.13






をぉぉっすげぇマトモ!自分にしたらっ(笑)
異論はあるかとも思いますが、こんな話もアリかと…。


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