053.
50/50(フィフティ・フィフティ)



「おい、ブランドル。本当にあんな所へ行くのか?」
「ったりめーだろ!このまま引き下がって…死んでったダチになんて言い訳するんだ?」
「確かに…でも相手は精霊暴走だぜ?戦ってなんとかなる相手じゃねーだろ?」
「行ってみねぇとわかんねーだろ?やっとヘナチョコでも地導師が手伝うってんだ。おエライさんの言うこともあるし、オレは行くぜ、炎雲の目へな」

 隣を進む戦車と無線交信でくっちゃべってると、後ろの席でヘナチョコ地導師のコゾウが何かボヤいてる。鼻で笑ってから視線をすぐに小窓の外へ戻す。
 炎雲の目。燃える熱灰、溶岩の火山弾、あちこちの地割れから灼熱の赤い川が流れている。この周辺の地域でも熱湯の雨、降り注ぐ炎の雨で、町も森も消えてしまった。
 もともとそこに火山があったわけではなく、突然50年前に災厄が始まったのだ。そこにある遺跡を中心にして。もとはただの丘だったらしい。だが、今では立派な火山に見えるほどの災厄の嵐の中心になっている。
 緑の多かったこの地方全体を黒く焦がし、少なくなった人の住める土地を求めての戦争が始まり現在に至る。
 戦車の隊列が止まり、戦車隊の隊長と地導師のコゾウが間近にせまる火口を見る為に戦車を降りてゆく。

「とにかく精霊暴走が止められるってんなら、こんなとこで死んじまった戦友の供養にもなるってもんさ」
「歴戦の猛者のオマエが行くったってよ…帰ってこれるのか?」
「さぁな。死ぬも生きるも50/50ってトコか?」
 無線の向こう側から太い笑い声が響く。
 みんな空笑いだ。
 戦いにシロートな地導師と、アルカダの小さなガキと、ハズマのオンナノコ…オレはヨーチエンの引率をやらされる気分だ。
 正直50/50なんて思えない。帰ってこられないかもしれない。
 沈みそうになる気分を払うように大声で笑う。

 にわかに外が騒がしくなる。
「総員退避しろ!戦車も下がれ!」
 隊長から大慌ての無線指示が飛ぶ。
「ちぃっ!どうなってんだよ?この時間は精霊暴走が落ち着いてるんじゃなかったのか?」
 目の前にある炎雲の目から一気に炎が噴出して、火の塊が次々とあたり一面に降り注ぎ、地面が小刻みに揺れる。
 急いで戦車を高速で移動できるモードに切り替えて…あいつ、何やってんだ!?
 あの地導師が戦車に戻ってこない。精霊暴走を目の当たりにして竦んじまったのか?
 イライラしながら戦車のハッチを開けて大声で叫ぶ。
「おいエヴァン!何をやってる!早く戻れ!!」
 聞こえたハズなのに、何を思ったかいきなり前方、火口に向かって走り出す。
 そして振り向いてひと言、
「ブランドル!あれだ、あの柱を撃つんだ!!」
 指差しているのは過去に溶岩が噴出して、中がどうなってるのかもわからない岩石の柱。
 強い確信のある瞳に一瞬気圧される。
「くっそうっ!黒コゲになったら、一生てめぇを呪ってやるからな!」
 怒鳴り返して、戦車の操縦桿を握りしめ、エヴァンが指した柱に向かって戦車の砲を撃ち込む。
 走り出したエヴァンを追い、途中で戦車に飛び乗ったのを確認すると、そのまま柱に開いた穴に向かい全速で突入する!
「つっこめーー!!!!」

 大きく揺れて、どこかに落ちて戦車が止まる。
 入ってきた穴が、砲撃の残骸で埋まる。
 …とにかく安全な場所にたどり着いたことは間違いが無さそうだ。
 ハッチを開けて中の二人、ティトとミャムも一緒に外へ出る。エヴァンも無事だったようだ。
「地下空洞か?へぇ…」
 他人事のように辺りを見回すエヴァン。
「ココだって言ったのはてめぇだろうが?おい、なんでここだってわかったんだ?」
「え?…見えたんだ、光の流れというか…何かに引きつけられて…。なあ、見えなかったか?あの光?」

 ふと思い出す、生存の天才ってヤツの話。
 どんな状況でも、確実に死んでしまうような場所でも、そいつがいるだけで必ず生き残ることができるという。
 0%を100%に変える人間ってのは…いるのかもしれない。

「その、光がみえたってのは、エヴァンの地導師の力なんじゃないかな?」
「エヴァンは精霊の力の流れが見えるんだね」
 ミャムとティトも、まあオレよりは精霊なんかに詳しいんだろう。

「おれの…力?」
 まだ呆然としてるエヴァンの頭を後ろから軽く掴んで揺すってやる。
「おまえの力は認めてやるよ。こうして生き残れたんだからな。…だがな、まだ半人前だ!」
「なんだと!!」
 オレの手を振り払って身構える地導師のコゾウ。
「そう言われたくなかったら、もうちっと早く言えよ!ヤバくなる前に、な!」

 そうだ。コイツといれば生き残れる…だろう。
 その能力ってヤツもまだまだ半人前、生き残れる確立ってヤツもまだ50/50程度か?
 だが、そのうちコイツは勝てない勝負さえもひっくり返しちまうほどになるかもしれない。

「じゃ、炎雲の目、遺跡に向かって行ってみようぜ!」
 オレたちは軽く笑いあって、先へ進むことにした。


おわり。



いや、あの。
50/50のモトネタはグランディア2の船なのよん。
ウチのサイトに来る人にはバレバレよねん。
珍しくブランドル軍曹一人称な話でした。軍人ドリーム勃発か?ゴツいけど。(笑)

2003.02.20


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